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S a c r i f i c e / サ ク リ フ ァ イ ス
第三章( 1 )
忘れものを取りに帰ってくると、小さな郵便受けに白い封筒が一枚入っていた。
差出人はE.Hとなっている。エレン・ヒースだ。
手紙はいつもの通り、親愛なるRへ。という書き出しで始まっていた。ヒースは、面倒くさがって名前を省略するくせがあるが、親愛なる、と書いてくれるよりもちゃんとリシュアと書いてもらった方が彼女としては好ましい。
彼とは先月ウィルニーで会ったばかりだった。なにか不具合が起きたのだろうか?
親愛なるRへ。
南西大陸の東側にあるアシュタット砂漠のオアシス都市・ソレッタで魔力剥奪らしき現象が起こった。ウィルニーとの相違点は、死人が大勢出たことだ。しかも、その中の半数は刃物の類で物理的攻撃を加えられたために死亡した。あとの半数は魔力剥奪の影響で体内魔力の均衡を失うなどして死亡。
ソレッタでは、見知らぬ黒衣の集団が襲来したといわれている。そして、その黒衣の集団と、数人の男女とが戦っていたのを現地の魔導師が目撃している。ただ、その魔導師は意識朦朧とした状態であったらしいから、向こうの魔導師会ではその信ぴょう性について論じられている最中だが。
その数人の男女の中にお前の兄貴はいないか?
ソレッタの宿の利用者帳簿には、五人の客が滞在している記録があった。砂漠のオアシス都市とはいえ、そもそも砂漠に訪れる者が少ないのだから、黒衣の集団に対峙した数人の男女というのは彼らのことではないかと思われる。
代表者の記帳名はヴァーク・レンスター。聞き覚えはあるか? 偽名かもしれないが。
死人が出た。もう放っておけない。
この件については俺が担当する。
とりあえず、おまえの兄貴と、それから一緒にいるエルフの女性を探すつもりだ。魔力剥奪についての扱いは、魔導師会にはまだ言わないでおく。訳の分からない現象に翻弄されて、魔導師会は気が立っているから、エルフの関与が疑われるといえば、エルフとの種族間問題に発展しかねない。そもそもが俺とおまえだけの推論だし。
おまえの隠し事が、このことに関係しているんだったら連絡をくれ。
何度も言うが、もう放っておけない。ライフライン停止程度の問題じゃなくなったんだ。
それじゃ。
ちゃんと食って寝ろよ。
書き出しもいつもと同じなら、終わり方もいつもと同じだ。
リシュアは手紙をもう一度読み返して、何を隠してたっけ、と首を傾げる。そうだ、フレイスがセリアに預けた伝言内容と、シトラス王妃や、フィマ・グランデというあの消えた老婆が力説する災厄云々についての話だ。
(お兄ちゃんと一緒にいるエルフがカースのお姉さんらしいことは、言っておくか)
その代わり、何か分かったら連絡を寄越せと言おう。
すぐにでも返信を書きたかったが、今のリシュアにその時間はなかった。城下都市の鐘が九つ鳴り始める。プリムローズ王女によるスピーチは十時からだ。
(生誕祭が終わったらすぐに返事しよう)
国家魔導師として警備長補佐の任務を与えられたリシュアは、セインレド王国第二王女プリムローズの十五歳の生誕祭のため、急いで王城へと向かった。
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