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S a c r i f i c e / サ ク リ フ ァ イ ス
第二章( 2 )
「どこまで憶えてる?」
「――――」
「倒れる前、俺がおまえに話したことだ」
「・・・俺が父さんを、問い詰めたところまで。あとは・・・リシュアの母さんが法族で、この剣と・・・スークの指輪みたいな魔導具を、母さんたちに贈ったこと」
「それから?」
それから。
それから、何を訊いて何を話した?
「・・・・・・思い出せない」
「そうか。無理に思い出そうとするとまた頭痛が来るぞ。俺が知っていることを黙っていたのは、おまえのそれが心配だったからなんだ。おまえはあれからずっと」
言い掛けて国王は首を振った。
「何を言ってもおまえを苦しめる気がする。おまえのその頭痛を何とかする方法を、本当に探さなければならないな。今年に入ってから不穏な予感ばかりがする。サラも、八年周期という意味深な言葉を残している」
「八年周期?」
「サラは急用で妹のところへ行く、と云い残したまま帰って来なかった。十六年前。リシュアが生まれてすぐのことだ。その時に、八年周期がどうとか呟いていたのをシトラスが聞いている。そしてその八年後、今から八年前には霧生の乱が起こっただろう。ヴェナールが死に、同時期にエレナも死んだ。乱が終息した後にやってきたハウラも死に、カースの母親のエシカも死んだ」
「彼女も魔導具を託されていたんですか? その、カースの母親の」
「ああ、エシカも持っていたな。だがカースは持っていなかった。エシカにはもうひとり娘がいたから――カースの姉だな――そっちの方が持っているのかもしれないし、別のところにあるのかもしれない。エルフの里のことはよく分からないから、エシカの死因やその状況については分かっていないんだ。カースも言いたがらなかったし――しつこく訊いたところでエシカが戻ってくるわけでもない」
「・・・そうですね」
(でも、ディルハーツが魔導具らしきものを持っている)
「そして、あれから八年後が今年だ」
「不穏すぎますね」
「不穏すぎるだろう」
あいつが死んだのは三年前だったがな、と国王は呟くように言った。
「災厄がどうだとか、詳しいことは俺にも分からない。シトラスにも分かっていなかったはずだ。全てを知っていたのは、おそらくサラだけだった。でもあいつは出て行ったきり帰って来ないし、あいつに魔導具を託された者たちはみんな死んでいった。その子どもたちや甥っ子がこのセインレドに集まってきたのは、何かあったら俺を頼れと、あいつらに約束させたからだ」
傷つきながらもこのセインレド王城にやってきたリシュアやスコルツァ、カースのことを思い出す。
再びグレインの頭に、鈍い痛みが戻ってきた。なんだかんだで薬を飲んでいないのだ。
カースが調合してくれた薬の、白い錠剤の方を流し込む。それを見計らって国王が言った。
「おまえが倒れた後、リシュアが来てたんだが、丸一日も寝てるもんだから一度帰って行ったぞ。リビティアの生誕祭の警備関係の仕事があって忙しいしな。その代わり今はスコルツァが来てる」
「ああ、スークが?」
「船で帰る間中なにか思い詰めてたからまた何かあるとは思ってたけど、みたいなこと呟いてたぞ。ものすごく怖い顔で」
「・・・・・・・・・」
冷や汗が背中を伝っていくのが分かる。スコルツァは滅多に怒らない分、怒ると怖い。
「プリムは動揺して泣きそうだし、リビティアもなんだかんだ心配で生誕祭の準備に手がつかないようだし。まあ、夕食に顔出せるなら出しとけ。俺は仕事だから今日は別だが」
「分かりました、行きます」
父親が出て行くと、入れ替わりに医師が入ってきた。
今度はその後ろにプリムローズがいる。
「プリムか。久しぶりだな。どうした?」
「どうしたじゃないですっ」
いつも穏やかなプリムローズにしては珍しい剣幕である。後ろで医師が苦笑いしているが、どうにも自分に向けられたものであるらしい――そう気付いてグレインは、ああ確かに「どうした?」という間抜けな言い方もないな、と思い直す。
「心配して来てくれたのか」
「中央大陸から帰ってきて以来ずっと、具合悪そうにしていたから」
「いや。別に――」
「嘘を吐くなんてお兄様ひどい。わたし気付いてました。わたしだけじゃなくてお姉様もメリルもみんな。お兄様が頑張って隠そうとしたって、わたしたち、ちゃんと分かります」
少し年齢の離れたこの妹にはグレインも滅法弱い。
もう一度「ひどいわ」と怒られる。どうにか謝罪すると、少しは許してくれたようだった。
「お兄様、夕食には来られますか?」
「今、着替えてから行こうと思ってたところだ」
ついて行くと言ったので、プリムローズも連れて昇降機で最上階の私室まで行って手早く着替え、再びプリムローズと一緒に昇降機で食堂のある三階まで下りる。
「リシュアが来てくれたんだってな。悪いことした」
「お兄様がなかなかお目覚めにならないから、お仕事もあるし帰って行きました。忙しくなるから生誕祭が終わるまでは来られないと言って。生誕祭の時に元気そうな顔でいればそれで許すらしいです」
「そうか」
「今朝、入れ替わりでスコルツァさんがいらっしゃいました。カースさんはお昼頃になって、お父様の要請であの助手の方と一緒に。・・・ディルハーツさんとおっしゃる方、とても面白かった」
「記憶喪失らしい。ちょっと変わってたな。子どもみたいで」
「ディルハーツさんはスコルツァさんとしばらくお話なさっていたんですけど、スコルツァさんも気に入られたようでした。・・・あのねお兄様、スコルツァさんは『セリアに少し似てる』と言っていたのだけれど、セリアさんというのはどなた?」
この妹姫が、スコルツァに対して憧れめいた好意を抱いていることをグレインは知っている。笑いながら髪を撫で、彼女の懸念を晴らしてやった。
「先月、蒼海で出会った人魚だよ。真珠色の髪をしていて。確かにディルハーツも銀髪だったし、雰囲気も屈託がなくて似てる感じだったな」
人魚は、男性っぽい女性っぽいという見た目の違いは多少あるものの、本来的には下半身が魚類に酷似していて生殖機能を持たない。それに関係しているのか、恋愛感情というものを持たず、またそれを理解できないところがあるらしい。
プリムローズはそれで少し安心したのか、恥ずかしそうに笑った。
食堂に入ると、リビティアとスコルツァが既に席に着いて待っていた。
「調子はどう、グレイン?」
「今はとても良いよ。心配かけて悪かった」
いつもの席に座ると、隣のスコルツァが唇の端を吊り上げるようにして笑った。
どことなく怖い笑い方だったが、そう怒ってはいないようなのでグレインは安堵する。
「ちゃんとプリムに怒られた?」
「ああ」
「言わなきゃ分からないなんて高を括るには相手が悪いよ。みんなレイツのことをちゃんと見てる」
「ずっと家族として過ごしてきたのよ。心配かけたくないというあなたの思いも分かるし、気付いていたところでどうにも出来ないから、黙っていたけど・・・何でも一人で抱え込むような悪癖は治すべきよ、グレイン」
姉の指摘にも頭が上がらず、グレインは苦笑するしかなかった。
夕食後、スコルツァが泊まっていくというので、二人で最上階にあるグレインの私室へ戻る。その途中、グレインはディルハーツが自分のと似たような剣を持っていることや、父から聞いたことを話した。
「ああ・・・それでわざわざここまで来たんだ、ハウラは」
「知らなかったのか? 友人同士だって」
「うん。訊かなかったし」
「気になっただろ、いきなりこんなところに連れて来られたら」
スコルツァの出身地であるという樹海は、北東大陸の東側にあるという。
対して、このセインレド王国は世界の西端に位置している。海を渡れば近いのかもしれないが、セインレドの西側と北東大陸の東側は死海によって阻まれているため渡ることもできないし、死海がどのくらいまで広がっているのかも分かっていない。
「樹海を出ることは僕の意思でもあったからね。行き先はどこでもよかった」
「そうか」
「ここに連れてきてくれたハウラには感謝しているよ」
「そうか」
「うん」
スコルツァは、目覚めた時のことを思い出す。
暗幕の張られた部屋に蝋燭の灯がひとつ。
自分が負った火傷や切り傷の手当をする、見慣れない色彩を持つ者。金色や橙色や緑色、どれもスコルツァの見慣れない温かい色をしていた。
微かな音とともに、扉が開いて光の筋が差し込んでくる。自分の世話を焼いていたひとが驚いて声を上げ、そうしてスコルツァはその名前を知ったのだ。
『グレイン殿下、どうなさいました』
『・・・そのひとの、見舞いに来たんだけど』
スコルツァが光のもとに見た人間は、グレインが初めてだった。
「とりあえずカースとディルハーツのところに行くのは、リビィの生誕祭が終わってからだな。もう明日か」
濃い灰色の髪と、血の色そのままの眼。
その眼を真っ向から見た時、吸血鬼としての本能が襲いかかってきた幼い自分に、彼は臆することなく腕を差し出した。
好意を持つ者の血液しか美味と感じない、君のはきっと美味しくないから要らないよ、と――云う暇もなくその血を得た。薄々と予想していた通りに彼の血は不味くなかった。
一目惚れというなら一目惚れなんだろうか。
誤解を招くようなことを言うなとグレインは怒るだろうが。
「・・・・・・おまえ人の話聞いてないな?」
少し呆れたような目で見られて、スコルツァは思い耽りすぎたなと肩をすくめる。
「とりあえずレイツは寝なよ。起きたら話を聞くから」
「丸一日寝てたんだぞ」
「その気になれば眠れるよ」
諭して寝台に押しやる。
その途端、急激に眠気が襲ってきたらしい。やはり疲れとは別の眠りだったのだろうか。不可解な頭痛だ。グレイン自身のみならず、リシュアやリビティアやプリムローズ、国王に王城の人々――スコルツァが数少ない好意を持つ人々を苦しめるから、彼の頭痛は非常に腹が立つ。
「そうだおまえ、血は――」
「レイツが元気になったらね」
他人のことばかり考えるのもどうかと思う。
というよりは、心配されている自分の状態がよく分かっていないのだろう。
彼は、頭はいいが鈍感すぎる。
「おやすみ」
魔導をかけられたかのようにグレインの瞼が閉じた。
『消えちまえばいい。この馬鹿野郎』
グレインは夢の中で激怒していた。
知る限りの罵り言葉で、誰かを非難し続けていた。
使えない。
役立たず。
そんな言葉ばかりを繰り返していた。
(ああ、俺のことだ)
すべて自分に対する言葉だと気がついた刹那、意識が掬いあげられていくのを感じた。
グレインは、スコルツァに起こされて眼を覚ました。
夢のことは覚えていなかった。
朝食を摂り終えてすぐに着替える。セインレドのナショナルカラーである深緑色のスーツにえんじ色のネクタイを合わせ、国章の刻まれたカフスボタン、ネクタイピン、腕章などの装飾品を着ける。前髪を後ろに流して固め、最後にブーツを履く。姫たちは美しいドレスを着るが、グレインは大抵このような軍服に少し近い装いをする。少し迷って、装飾剣を腰に佩いた。
スコルツァも人前には出ないが一応正装である。紺色のスーツに水色のネクタイ、以前リビティアから贈られたカフスボタンをしている。いつもはゆったりとしたローブやマントを被っていたりフードの付いている服を着るので、少し着心地が悪そうに見える。
「殿下、お支度はよろしいですか」
「ああ」
「僕は先にリーアのところに行くよ。ついでに昨日聞いたことも軽く話しておく」
セインレドの国家魔導師であるリシュアは、王国騎士団長であるワスティア氏と共に、警備長に就任している。その最終会議のために王城へ来ているはずだ。
「あとでな。プリムを頼む」
昇降機の扉が閉まる間際、スコルツァがひらひらと手を振った。
メイドのメリルに連れられて、グレインは三階の空中庭園へ降りる。そこでは、淡い桃色のドレスを着たプリムローズがひと足先に来て待っていた。今日も庭園の世話を欠かしてはいないようだ――さすがに盛装用のドレスが汚れるから土いじりなどはできないようだが。
本日の主賓のリビティアは、着飾られる度合いが違うのでまだ来ていない。
「おはよう」
「おはようございます。お父様は警備の最終確認をしに会議へ行ってます」
「そうか。リビィはまだかかるのかな」
「もうすぐスピーチの時間になりますから、もう来ると思います。お姉様ね、今日はお母様のドレスを着るみたい。お姉様はお母様にとてもよく似ているから、楽しみ」
母が死んで四年目、プリムローズの傷も徐々に癒えてきている。
リビィが母のドレスを着ようと思ったのも、傷が癒えてきた証拠だろうか。
「――お兄様?」
「いや。早く見てみたいと思ってな」
「わたしも」
二人でしばらく待っていると、メイドに付き添われてリビティアがやってきた。
その姿に目を見張る。
結いあげられた淡い金髪も、穏やかな緑色の眼も、真っ白な肌に施された薄化粧も、背筋を伸ばした立ち姿も、あまりに母親に似すぎていて。
「すごいな」
言いようもなくて呟くと、リビティアが笑う。
「それは褒め言葉?」
「褒めてるよ」
――溢れだしてきそうな記憶を押さえこむ。
強い鎮痛薬の方を飲んできてよかった、とグレインは思った。
セインレド王国の第一王女リビティアの生誕祭は午前十時からである。十時になる少し前に城下都市へ行き、広場で行われるリビティアのスピーチを国民たちと共に聞く。
このセインレド王国では非常に珍しいことに、生誕祭には王族が直々に城下都市まで出てきてスピーチを行うという習慣がある。そしてその後、王城を二階まで開放し、開放部分の王城および城下都市全体で歌や踊りやパレードなどのお祭り騒ぎが夜まで続けられる。
第二王女のプリムローズだけは、八年前の『霧生の乱』で負った心的外傷が原因で王城から一歩も外に出ることができず、よって自身の生誕祭の時にはバルコニーからのスピーチとなり、また他の家族の生誕祭の時も同じくバルコニーからスピーチを聞く。
グレインがスコルツァに、「プリムを頼む」と言ったのはこのことである。スコルツァも吸血鬼という種族の関係上、目立つ容貌の持ち主であるため、あまり城下町の人だかりに出ることはない。だからいつも、プリムローズと一緒にバルコニーにいてくれるのだ。
リビティアのスピーチが無事に終わり、城下都市を始めとした国全体がお祭り騒ぎに包まれる。
このお祭り騒ぎというのが好きなスコルツァは、飽きもせずにバルコニーからそれを眺めていた。隣でゆっくりお茶を飲んでいるのはプリムローズである。
「来月はプリムの誕生日だね」
「はい。もう十五歳になるなんて、早いです」
「今日のドレスもすごく似合ってるけど、はっきりした色も似合うと思うよ。今度着てみたら?」
そうします、とプリムローズははにかんで笑った。
スコルツァも微笑み返して、再び二階のバルコニーから城下を見下ろす。その背中に、プリムローズは不安げに問いかける。
「お兄様、何かあったんでしょうか」
「レイツが? どうして」
「お母様の形見のあの剣を持ち歩くようになりましたし、帰ってきて以来ずっと頭痛が良くならないみたいですし・・・隠そうとするのは、いつものことですけど」
「困った癖だよね。昨日王様とずっとその話題で喋ってたけど」
「そうなんですか?」
「王様は、あいつ誰に似たんだとか、ひたすら首傾げてたよ」
プリムローズが笑う。スコルツァはしばらくその笑顔を見ていたが、すっと真面目な顔になって言った。
「頭痛がひどくなっても剣を持ち歩いていても、レイツがレイツであることに何も変わりはないよ。プリムが不安がることなんか何もない」
「・・・・・・そうですね」,br>
「だから、今は楽しもう。城の中でも出し物があるんでしょ?」
行こう。
至って自然に差しのべられた手を取ってから、プリムローズは恥ずかしくなって頬を染めた。
城下の市民たちと様々な話をしていたグレインは、六時半を指している時計に気が付いて王城に引き返した。一般開放されていない三階の空中庭園に、人を待たせていたからだ。
急いで昇降機で三階まで上がり、庭園へ足早に歩いて行く。
庭園の大きな窓ガラス越しに城下を眺めていた彼女は、ふわりと振り向いて微笑んだ。
流れる黒髪に藍色のドレス。夜のような女性。
「急いで来てくださって嬉しいわ」
「――悪い。硝子工場の職人と、話し込んで」
「城下の娘さんたちはあなたとお話したかったでしょうに、取ってしまってなんだか悪いわ」
「からかうな、リナ」
セインレドの隣国・マーベリックの王女リナミエルは、口元に手を当てて上品に笑った。彼女はグレインよりも一つ年上で、昔から何かと付き合いがある。
「ティアリス女王陛下は元気か?」
「ええ。相変わらず仕事ばかりだけど。もう、あそこまでいくと仕事が好きなのね」
「ひどい言い草だな」
ティアリスというのはマーベリック女王の名であり、リナミエルの姉の名でもある。
八年前の『霧生の乱』で、マーベリック王国は国民の半数および国王夫妻を失った。それで即位したのが、当時十六歳だったティアリス王女である。彼女は見事な政治的手腕で、八年の間に半壊した王国をほぼ元通りに立て直した。
このリナミエルも、姉同様に聡明な女性だ。その美貌も相まって、寄せられる求婚の数は多いという。だが、男性に負けずに采配をふるってきたプライドが、ただ嫁いでいくことに納得できないのか、結婚するという話は一向に聞いたことがない。
「ここひと月ほど、体調が悪かったようね。リビィから聞いたわ」
「もう平気だ。いつもの頭痛だから、別に体調自体は悪くなかったし」
「それならいいけど。・・・その頭痛は、どうにかしてよくならないものかしら」
「神経症だろうからな、気の持ちようだと思うんだが上手くいかない。なんとか付き合っていく他はないな。痛み止めの薬があればほとんど倒れることもない」
「薬に頼ってばかりもいられないんでしょ? ・・・・・・まあ、私が口出すことはないわね」
「心配してくれて嬉しいよ」
グレインがそう言うと、リナミエルは拗ねたように口を尖らせた。
どうした、と不思議そうに首をかしげると、なんでもないわ、と元の表情に戻る。
「――それよりも。リビィってやっぱり結婚予定はなかったのね」
「結婚?」
「そういう噂が流れてたのよ」
「初耳だな」
「――あなたは」
プリムローズの育てている白い花に触れていたグレインが顔を上げた。
「身を固めはしないの? セインレドは王位継承が早いのだから、もう考えてもいい頃でしょう」
「残念だが、あてがないから結婚のしようがない」
少しの意味が込められた問いかけに、少しの意味をもって見つめ返す。
階下や城下都市の喧騒が遠くなり、時が止まったかのようだった。
どこからか風が起こった時、グレインが触れていた花から指先を離して言う。
「下へ行くか。もうすぐ七時になるし、パレードが始まる」
「そうね。それが楽しみで来たの」
何事もなかったかのように、ふたりは並んで歩き始めた。
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