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開放的な雰囲気の城下。
眠ってばかりいたが、こんな雰囲気だっただろうか――朱鳥が怪訝に思う暇もなく、答えは簡単に降ってきた。
「お兄さん異国の人かい。珍しい髪の色だね」
露店で装飾品を売っている男性が声を掛けてくる。
流浪の民である朱鳥は、こういった馴れ馴れしさというものが結構好きだ。
「ここは前に来た時より、明るい感じがするね」
「そりゃあそうだ。平民の時代が来たんだから――知らないのかい」
きょとんとした表情をしていたのだろう。男性もびっくりしたように朱鳥を見た。
「この辺じゃ結構ニュースになったのになあ。よっぽど遠くから来たのか」
「遠くといえば、遠くだね」
夢の世界から来ましたとは言えない。
そんなことより、と話を促すと、男性は大きな坂道の方を顎で指した。
「狭霧国王が死んだ後に、その後継者っていうのが一度来たらしいんだけどよ、すぐにいなくなっちまったらしい。それで王位継承者のいなくなった火旺国の忌々しい血統主義は滅んだわけだ」
「貴族の人たちはどうなったの?」
「貴族制もなくなるんだから滅ぶだろうよ。元々平民と違って、仕事なんざできねえ連中だしな」
色んなところを端折った説明だったが、朱鳥にはよく分かった。
要するに自分が逃げた。平民たちが革命を起こした。それに伴い貴族も没落した。
そういうことだろう。
「もう貴族は誰もいないの?」
「ついこないだ、鳳が滅んだばっかだよ。それで最後だ」
朱鳥は坂の上にそびえ立つ王城の方を見上げた。
短く息を吐くと、唇を引き結んで歩き出す。
「貴族、貴族っていうがもう誰もいねえぞ。そっち行ったって、屋敷の跡地があるだけだ」
返事もせずに朱鳥は坂を登っていく。
ついこないだ、
鳳が滅んだばかり
浮にあらかじめ聞いていた道を通り、辿り着いたのは他の屋敷よりも一層広い建物。坂の下の往来はあんなに賑やかだったのに、ここは奇妙に静まりかえっている。
誰もいない。物音もしない。
庭はもう荒れ始め、薔薇が好き勝手に咲き乱れている。
「――誰も居ない」
声に出して、どうするつもりだったのか。
朱鳥は自分に苦笑いして、しばらく立ち尽くして屋敷を眺める。
あのひとは、ここに住んでいたのか。そういえば一度も王城から出なかったから知らなかった。
(おれとあなたは、約束を守ることができないのか)
探すこともできる。しかし彼女がそれを望むだろうか。
自分の境遇を恥じるような状態になっているかもしれないのだ。少し、迷った。
その時、朱鳥の背に声をかける者がいた。
「何用ですかな」
「この屋敷に住んでいた、お嬢さんに」
白髪混じりの老人だった。着ているものや来たところから見ると平民のようだが(そもそも貴族など残っていないとあの露店の主は言っていた)、しかしやけに気品がある。気品というよりは教養か。
「あなたはここに仕えていたひと?」
「さようでございます。鳳家に長年仕えておりました」
鳳家の老執事は、朱鳥の容貌を一瞥した。
「金髪、青い目。異国の方。間違いないようですな。愛結お嬢様から伝言を預かっております」
「伝言?」
「お待ちしていられなくてごめんなさい。私は紗那国へ行きます――と」
「紗那・・・」
流浪している時に通ったことがあっただろうか。
あまり聞き覚えのない国名だった。
他国へ行ったのか。
「あのひとがどうなったのか、聞かせてほしいんだ」
老執事は朱鳥の目をじっと見つめた。
見つめ返す。
「なぜですかな」
「約束したんだ。自分の足で会いに来るからって」
「・・・約束」
「――ああでも、違うな」
火旺国に向かっている最中から、朱鳥は何となく感じていた。
もし、約束なんかなかったとしても。
なかったとしても、おれは。
「おれは、あのひとに会いたい」
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